敵情の観察(三)
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現代語訳
兵士が杖によりかかっているのは、全軍が餓えているしるしである。水を見つけるとすぐにすくって飲むのは、喉が渇いているしるしである。
利益があるのに進まないのは、疲れているのだ。上空に鳥が集まっているなら、その陣はもぬけの殻だ。
夜中に声を上げているのは、恐れているのだ。兵士たちに規律が無く乱れているのは、司令官に重みが無いのだ。
旗が落ち着かないのは、軍が乱れているのだ。役人が怒っているのは、軍が疲れているのだ。
馬に兵糧米を食べさせ、兵士達が軍馬をばらしてその肉を食べ、食糧のための器や鍋を打ち壊し幕舎に戻ろうとしないのは、もう切羽詰まっているのだ。
司令官があまりねんごろに兵士たちを諭しているなら、兵士たちの気持ちが離れているのだ。無闇に賞を与えるのは、苦しい状況だからだ。無闇に罰するのは、疲れているのだ。
最初兵士たちを乱暴に扱っておいて、後に離反を恐れて下手に出るなどというのは、考え不足の極みだ。
わざわざ貢物を持ってきて休戦を申し出るのは、軍をしばらく休めたいのだ。
敵軍が怒りくるって襲ってきたのに、いつまでたっても戦闘を始めない場合は、注意深く状況を観察すべきだ。
原文
杖而立者、飢也、汲而先飮者、渇也、見利而不進者、勞也、鳥集者、虚也、夜呼者、恐也、軍擾者、將不重也、旌旗動者、亂也、吏怒者、倦也、粟馬肉食、軍無懸缻、不返其舍者、窮寇也、諄諄翕翕、徐與人言者、失衆也、數賞者、窘也、數罰者、困也、先暴而後畏其衆者、不精之至也、來委謝者、欲休息也、兵怒而相迎、久而不合、又不相去、必謹察之、
書き下し
杖つきて立つ者は飢うるなり。
汲みて先ず飲む者は渇するなり。
利を見て進まざる者は労るるなり。
鳥の集まる者は虚しきなり。
夜呼ぶ者は恐るるなり。
軍の擾るる者は将の重からざるなり。
旌旗の動く者は乱るるなり。
吏の怒る者は倦みたるなり。
馬に粟して肉食し、軍に懸フなくして其の舎に返らざる者は窮寇なり。
諄諄翕翕として徐に人と言る者は衆を失うなり。
数々賞する者は窘しむなり。
数々罰する者は困るるなり。
先きに暴にして後に其の衆を畏るる者は 不精の至りなり。
来たりて委謝する者は休息を欲するなり。
兵怒りて相迎え、久しくして合わず、又た解き去らざるは、必ず謹みてこれを察せよ。