敵情の観察(一)
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現代語訳
近くにいる敵が動じていないのは、地形の険しさを頼みとしているからである。遠くにいる敵がわざわざ攻めてくるのは、こちらが進軍することを望んでいるからである。
平地に布陣しているのは、エサをちらつかせて誘い出そうとしているのである。木々がざわめくのは、敵が攻めてきたしるしである。
草がたくさん覆いかぶせてあるのは、伏兵の存在を疑わせるための目くらましだ。鳥が飛び立つのは伏兵がいるのだ。獣が驚くのは、敵の奇襲があるのだ。
ほこりが高く上がってその前方がとがっているのは、戦車隊が攻めてくるのだ。ほこりが低く垂れて広がっているのは、歩兵部隊だ。
散らばって細長いのは薪を集めているのだ。ほこりが少なくあちこち往来しているのは、軍営を作ろうとしているのだ。
原文
敵近而靜者、恃其險也、遠而挑戰者、欲人之進也、其所居易者、利也、衆樹動者、來也、衆草多障者、疑也、鳥起者、伏也、獸駭者、覆也、塵高而鋭者、車來也、卑而廣者、徒來也、散而條達者、樵採也、少而往來者、營軍也、
書き下し
敵近くして静かなる者は其の険を恃むなり。
敵近くして戦いを挑む者は人の進むを欲するなり。
其の居る所の易なる者は利するなり。
衆樹の動く者は来たるなり。
衆草の障多き者は疑なり。
鳥の起つ者は伏なり。
獣の駭く者は覆なり。
塵高くして鋭き者は車の来たるなり。
卑くして広き者は徒の来たるなり。
散じて条達する者は樵採なり。
少なくして往来する者は軍を営むなり。
現代語訳・朗読:左大臣光永