疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵略すること火の如く、動かざること山の如し 風林火山

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こんにちは。左大臣光永です。
もう上半期も終了ですね。あなたにとって、
どんな半年間だったでしょうか?

私はこの半年、長野や静岡で、講演する機会が多かったです。
先日は、東京多摩で『伊勢物語』の話をしてきました。
最近ようやく余裕をもって人前で話せるように
なってきた気がします。

さて本日は、発売中の商品「朗読『孫子』for Windows」にあわせ、
http://sirdaizine.com/CD/SunziInfo.html

『孫子』より「風林火山」として有名な、一節についてお話します。

(この商品は以前発売していたdvd版を改定したものです。
以前dvd版をお買い上げいただいた方には近日中に
無料でダウンロードできるurlをお送りします)

では、孫子の言葉です。

▼音声が再生されます▼

故に兵は詐を以て立ち、利を以て動き、分合を以て変を為す者なり。

故に其の疾きことは風の如く、其の徐なることは林の如く、
侵掠することは火の如く、動かざることは山の如く、
知り難きことは陰の如く、動くことは雷の震うが如くにして、
郷を掠むるには衆を分かち、地を廓(ひろ)むるには利を分かち、権を懸けて而して動く。

故兵以詐立、以利動、以分合爲變者也、
故其疾如風、其徐如林、
侵掠如火、不動如山、難知如陰、
動如雷震、掠郷分衆、廓地分利、懸權而動、

【現代語訳】

軍隊は敵の裏をかくことが基本である。
利益のある無しに従って行動し、
分散したり集合したりしながら柔軟に陣形を変える。

その速きことは風のごとく、静かなることは林のごとく、
侵略することは火のごとく、 動かざることは山のごとく、
知りがたいことは陰のごとく、動くことは雷が鳴るようなものだ。

敵の領土から略奪する時にはわがほうの人員をてきぱきと分業させ、
占領地を拡大する時には、中央の機能をそれぞれの拠点に分散させ、
よくはかりにかけて計算してから動くのだ。

静と動、虚と実

この章句は『孫子』第七篇「軍争篇」にあります。

「軍争」…つまり、軍隊の実際の運用方法について
書いてある章の中の、一節です。

「故に」からいきなり始まっているのが唐突な感じですが、
別に前の話から大きく内容をひきずっているわけではなく、
「故に」は『孫子』の単なる口癖と考えたほうが読みやすいです。

疾きことは風の如く、徐なることは林の如く、
侵掠することは火の如く、動かざることは山の如く…

速き風と、静かなる林。両者はまったく正反対に見えます。
侵略する火と、不動の山。両者はまったく正反対に見えます。

しかし、それらはねっこで一つであり、
相互に変化しながら、敵を翻弄するのだと
孫子は説くのです。

敵(相手)に応じて変化する

そしてこれらの変化は、けしてデタラメに変化させるのではなく、
相手(敵)の出方に対応して、敵によって、臨機応変に変化させるのです。

『孫子』の他の箇所にはこうあります。

勝つべからざるは己れに在るも、
勝つべきは敵に在り。

「攻撃されても絶対負けない」不敗の状況を作るのは、こちら側の仕事だが、
「今攻撃すれば絶対勝てる」という必勝の状況になるのは敵側の事情である。
(意訳)

つまり、自軍がどれだけ体制を整えて、装備をいいものにして、
完璧な状態に持って行ったからといって、
それだけでは「ぜったい負けない」というところまでしか
持っていけない。

戦争には相手があることだから、「絶対勝てる」という所まで持ち込むには、
相手を分析し、弱点を把握し、敵側の事情に応じて、
ここぞという所で攻め込むことが、大事だと。

敵(相手)に応じて対応を変えることを、
孫子は強調します。

クラシックの演奏

私はこの『孫子』の「風林火山」のくだりを読むと、
ドヴォルザークの「新世界より」が耳奥で響き始めます。

クラシック音楽の音というものは、ささやくような微かな音から、
すぐ横でジェット機がキィーーンと離陸しているような爆音まで、
音の幅が、極端に大きく、しかもそれらが緩急おりまぜて
大きくなったり小さくなったり、実に変化に富んでいます。

心地よく眠りに入ろうとしていたら、
いきなりズガーーンときて、たたき起こされます。

CDに収録されると音の粒が揃えられてしまい、
「ふーん」という感じの平坦な音になってしまいますが、
生の演奏を聴くと、
音というものはこんなにも幅があるのか、陰影があるのかと、
あらためて感動させられます。

「風林火山」なる孫子の軍隊の変幻自在の運用は、
クラシック音楽にも通じるものがあると思うのですが
いかがでしょうか?

武田信玄の旗

よく知られていることに、
武田信玄は、孫子のこの文章を十四文字に凝縮して
自軍の旗にあしらいました。

疾如風
徐如林
侵掠如火
不動如山

『孫子』の本文と比べると、「其」という字が削られ、
簡潔になっていることがわかります。

私は今年の3月、武田信玄の取材のため甲府に行ってきました。
武田信玄の館・躑躅ケ崎館跡にある武田神社では、
信玄の師・快川和尚(かいせんおしょう)の筆による、
「風林火山」の旗が展示してありました。

紺地の絹に力強い金文字で書かれており、
おおっ…この旗が!

武田騎馬軍団の陣頭で、
ばたばたとはためいていたのかと、
感慨深いものがありました。

といういわけで、

発売中です。

朗読『孫子』For Windows
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「風林火山」「呉越同舟」などの言葉でよく知られる兵法書『孫子』。
人を動かすには、動かざるを得ない状況に追い込むこと。
死地に陥れて初めて生く。『孫子』の教えは(約)2500年を経た現在でも、
戦争のみならず、ビジネスに、人間関係に、
広く応用のきく柔軟性を持っています。

しかし『孫子』を抜粋して解説した本は読んだことがあっても、
『孫子』全文を通して読んだことのある方は少ないのではないでしょうか?
躍動感あふれる中国語朗読も、聴きどころです。

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6月30日お申込みまでの期間限定特典となります。
お早目にどうぞ。
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本日も左大臣光永がお話しました。
ありがとうございます。

書き下し

故に兵は詐を以て立ち、利を以て動き、分合を以て変を為す者なり。

故に其の疾きことは風の如く、其の徐なることは林の如く、侵掠することは火の如く、動かざることは山の如く、知り難きことは陰の如く、動くことは雷の震うが如くにして、郷を掠むるには衆を分かち、地を廓むるには利を分かち、権を懸けて而して動く。

迂直の計を先知する者は勝つ。
此れ軍争の法なり。

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現代語訳・朗読:左大臣光永

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