死地に陥れて然る後に生く

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現代語訳

外国の諸侯のはかりごとを知らないでは、同盟を結ぶことはできない。山林やけわしい土地、沼沢地などの地形を知らなければ進軍することはできない。地元の案内人を雇わなければ、地の利を引き出すことはできない。

こられ九つのうち一つでも知らないなら、覇王の軍とは言えない。

覇王の軍とはどういうものか。もし覇王の軍が敵国を撃てば、その大国の部隊は散り散りになって結集できない。覇王の軍の勢いが敵国に加われば、その敵国は助けを求めて諸外国と同盟を結ぶことができなくなる。

このように、外交に努めるのでもなく、権力を積み上げるのでもなく、ただ自分のやりたいように勢力を伸ばして、結果として敵国に圧力が加わる。

自然に城は落ち、国は敗れる。こういうのを覇王の軍というのだ。

規格外の賞を施し、規格外の法令を掲げれば、大部隊を統率するのも一人の人を扱うようにうまくいく。

軍隊を統率するにはただ命令だけを与え、その理由を説明してはならない。有利なことだけを知らせて、不利なことを知らせてはならない。

ギリギリの極限状態に追い込んでこそ兵士は死のもの狂いで戦い、結果として生き延びるものである。

困難な状況に陥ってこそ、はじめて勝敗を自分のものにできるのだ。

原文

是故不知諸侯之謀者、不能預交、不知山林險阻沮澤之形者、不能行軍、不用郷導者、不能得地利、四五者不知一、非霸王之兵也、夫霸王之兵、伐大國則其衆不得聚、威加於敵則其交不得合、是故不爭天下之交、不養天下之權、信己之私、威加於敵、故其城可拔、其國可隳、施無法之賞、懸無政之令、犯三軍之衆、若使一人、犯之以事、勿告以言、犯之以利、勿告以害、投之亡地、然後存、陷之死地、然後生、夫衆陷於害、然後能爲勝敗、

書き下し

是の故に諸侯の謀を知らざる者は、預め交わること能わず。

山林・険阻・ソ沢の形を知らざる者は、軍を行ること能わず。

郷導を用いざる者は、地の利を得ること能わず。

此の四五の者、一も知らざれば、覇王の兵には非ざるなり。

夫れ覇王の兵、大国を伐つときは則ち其の衆 聚まることを得ず、威 敵に加わるときは則ち其の交 合することを得ず。

是の故に天下の交を争わず、天下の権を養わず、己れの私を信べて、威は敵に加わる。

故に其の城は抜くべく、其の国は破るべし。

無法の賞を施し、無政の令を懸くれば、三軍の衆を犯うること一人を使うが如し。

これを犯するに事を以てして、告ぐるに言を以てすること勿かれ。

これを犯うるに利を以てして、告ぐるに害を以てすること勿かれ。

これを亡地に投じて然る後に存し、これを死地に陥れて然る後に生く。

夫れ衆は害に陥りて然る後に能く勝敗を為す。

現代語訳・朗読:左大臣光永

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