鐘や太鼓、旗や幟

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現代語訳

古い兵法書によると、口で言っても聞こえないから鐘や太鼓を使い、さし示すとも見えないから旗や幟を使うのであると。

軍隊がすでにまとまっているなら、勇敢な者も一人だけ突出することは無いし、臆病な者も一人だけさがることはない。

これが大部隊を運用する方法である。

だから夜の戦には松明と金鼓を多く使い、昼の戦には旗や幟を多く使うのである。鐘や太鼓や旗や幟は、人の目や耳を統一するためのものなのだ。

だから敵の軍隊の気力を奪い、敵の司令官の気力を奪うことが大事だ。

朝は気持ちがハツラツとしているが、昼になるとだれてくる。暮れになるともう虫の息だ。だから敵の気持ちが萎えている昼過ぎや暮れ方を狙うのだ。これが敵の気力を操る者のやり方だ。

秩序だった状態で乱れた敵を攻め、落ち着いた状態で混乱した敵を攻める。これが敵の心をうまくあやつる者のやり方だ。

戦場の近くで戦場の遠くから来る敵を待ち伏せ、元気ある状態で疲れ果てた敵を攻撃し、満腹な時に餓えた敵を攻撃する。これが敵の力を操る者のやり方だ。

敵が秩序だっており、陣容も堂々としていれば、そんな相手をわざわざ攻撃することは無い。これこそ敵の変化に従って柔軟な戦いができる者のやり方だ。

原文

軍政曰、言不相聞、故爲金鼓、視不相見、故爲旌旗、夫金鼓旌旗者、所以一人之耳目也、人既專一、則勇者不得獨進、怯者不得獨退、此用衆之法也、故夜戰多火鼓、晝戰多旌旗、所以變人之耳目也、故三軍可奪氣、將軍可奪心、是故朝氣鋭、晝氣惰、暮氣歸、故善用兵者、避其鋭氣、撃其惰歸、此治氣者也、以治待亂、以靜待譁、此治心者也、以近待遠、以佚待勞、以飽待饑、此治力者也、無邀正正之旗、勿撃堂堂之陳、此治變者也、

書き下し

軍政に曰わく、「言うとも相い聞こえず、故に金鼓を為る。視すとも相い見えず、故に旌旗を為る。」と。夫れ金鼓旌旗はなる者は人の耳目を一にする所以なり。人既に専一なれば、則ち勇者も独り進むを得ず、怯者も独り退くを得ず。此れ衆を用ふるの法なり。故に夜戦には火鼓を多くし、昼戦には旌旗を多くす。人の耳目を変ずる所以なり。故に三軍は気を奪ふ可く、将軍は心を奪ふべし。

是の故に朝の気は鋭、昼の気は惰、暮れの気は帰。故に善く兵を用うる者は、其の鋭気を避けて其の惰帰を撃つ。此れ気を収むる者なり。治を以て乱を待ち、静を以て譁を待つ。此れ心を治むる者なり。近きを以て遠きを待ち、佚(いつ)を以て労を待ち、飽を以て飢を待つ。此れ力を治むる者なり。正々の旗を邀うること無く、堂々の陣を撃つこと勿し。此れ変を治むる者なり。

現代語訳・朗読:左大臣光永

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